東京どぶろくサミット 前編(東京港醸造/木花之醸造所/三軒茶屋醸造所)
2020/11/04
みなさん、東京都23区に何軒のどぶろく醸造所があるかご存知でしょうか。
2011年 東京港醸造、2015年 にほんしゅ ほたる、2018年 WAKAZE三軒茶屋醸造所。そして今年、木花之醸造所、東京酒造場が立ち上がり、23区内には計5軒のどぶろく醸造所が誕生しています。
「10月26日どぶろくの日」を記念して、都内3醸造所が語り合う初めての試み「どぶろくサミット」を未来日本酒店Kichijojiで開催しました!
寺澤善実さん(東京港醸造 杜氏)、岡住修兵さん(木花之醸造所 醸造長)、戸田京介(WAKAZE三軒茶屋醸造所)の3名にお集まりいただき、それぞれの造るどぶろく、今後の日本酒&どぶろく業界への想いを語っていただきました。
今日はその一部をご紹介いたします。
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<目次>
1.醸造所、それぞれの造り
2.目指す味わい
3.どぶろくならではの工夫(後編)
4.これからの想い(後編)
1.醸造所、それぞれの造り
今日はありがとうございます。まず、醸造所のご紹介をお願いします。
戸田:三軒茶屋醸造所の戸田です。杜氏を務める三軒茶屋醸造所は、WAKAZEが2年前に立ち上げた醸造所です。
WAKAZEは「日本酒を世界酒に」をビジョンに掲げ、1年前にはフランスパリにも醸造所を立ち上げました。三軒茶屋醸造所の1年目は今はフランスにいる杜氏の今井が立ち上げ、2年目は自分が務め、どんどん新しい造りに挑戦しています。
自分は昨年6月の入社ですが、醸造所でのアルバイト蔵人期間を含めると、WAKAZEでの酒造りは2年経ちますね。
今日持ってきた「三軒茶屋のどぶろく【限定生酒】」は、看板商品「三軒茶屋のどぶろく」を特別に生酒でお持ちしました。
「三軒茶屋のどぶろく」は、どんどん新しいお酒をつくる三軒茶屋醸造所では珍しく唯一の定番商品です。これも設計コンセプトから携わっています。
岡住:木花之醸造所(コノハナノジョウゾウショ)の岡住です。木花之醸造所は今年6月に立ち上がった、浅草の駒形に飲食店併設のできたての醸造所です。
僕の経歴としては、新政酒造で4年半酒造りを修行して、木花之醸造所では立ち上げから醸造長として関わっています。木花之醸造所は、WAKAZEさんや東京港醸造さんなど都内でどぶろくを造っていらっしゃるのを見て、可能性を感じて立ち上がりました。
寺澤:杜氏の寺澤です。20年間、京都伏見の大手メーカーで大きい仕込みをやっていました。清酒業界が衰退していることを受けて、2000年からの10年間はフジテレビ前の「台場醸造所」で、小さな醸造所での清酒造りに携わりました。
その縁もあり、現在は東京港醸造で江戸開城というどぶろくをつくっています。東京港醸造も2011年にリキュールとどぶろくの製造免許取得から始め、2016年には清酒の製造免許を取得しています。
今年の8月には東京駅構内に「東京駅酒造場」がオープンしましたが、そこで造りをしている人物には、昨年7月から1年間私の元で修業をした人です。今後、このような発酵食をつくる人々を支援したくて「東京港醸造株式会社」という会社を起業しました。
そもそもどぶろくとは何でしょう?
寺澤:どぶろくの歴史は古く、どぶろくを語る=日本酒を語る=国菌を語るとも言えます。歴史上でいうと、縄文時代に米/米麹/黄麹が大陸から渡ってきて、稲作が栄え、黄麹からはどぶろくが造られた。
どぶろくは必須アミノ酸も多く含み、美容健康に効果がよい。甘酒と違いアルコールも含まれているので、「酔って健康!」が個人的キャッチフレーズですね。
甘酒とはなにがちがうのでしょうか
寺澤:甘酒は米と米麹。どぶろくはそこに酵母が加わり、アルコールや炭酸ガスを発生させている。昔は神に近い神聖なもので神社仏閣においてお祝いの場やお清めの場でつかわれていました。
同じどぶろくでも醸造所ごとにどんな特色があるのでしょうか
戸田:WAKAZEは山形で2016年創業した日本酒ベンチャー企業で、山形名産の食用米「つや姫」を70%精米し使用しています。
醸造所を構える世田谷区三軒茶屋は、昔から水が豊富な地域です。江戸時代から続くといわれている井戸水があり、そのお水を使い酒造りをさせていただいています。
また、酵母以外の添加物をつかわない無添加の造りと、食事に寄り添うことを大事なテーマとしています。白麹の酸味や、米の旨味を引き出すことで、むしろ日本酒よりもどぶろくのほうが日常の食中酒に向くと感じています。
三軒茶屋醸造所には併設して飲食店も構えており、そこではどぶろくへのペアリングとして唐揚などの日常に落とし込みやすい料理を提案しています。
三軒茶屋醸造所併設飲食店WhimSAKE&TAPASの人気の組み合わせ。三軒茶屋のどぶろく×自家製醤油麹の唐揚
岡住:木花之醸造所は、酒造りの神様でもある日本書紀にもでてくる女神 木花之開耶姫(コノハナノサクヤビメ)から名前を頂いています。
木花之開耶姫の花とは桜のこと、また醸造所を構える台東区の区木が桜。この2つの由来から、どぶろくの名前はハナグモリと名付けました。ハナグモリとは、桜の季節の華やかさとあいまって霞がかかったような空を言います。
造りについては、WAKAZEさんと似ているところがありますね。というのも戸田くんの師匠である今井翔也杜氏は僕と同じ新政酒造で修行をしていたので、考え方を少し頂いています。
酵母以外の添加物をつかわない無添加の造りを大事にするとともに、僕の造りではお米はなるべく磨いていません。お米も磨けば磨くほどもったいないという想いもあり、精米歩合90%と食べる米と変わらないことをポリシーにしています。
今日用意したのは、白麹でかなり酸味をだして特徴づけている「ハナグモリLAB 01 白麹どぶろく」。LABは実験酒シリーズで、ここには僕の変態性を発揮しています。そのなかでもライトめな第1弾ということで、今後は水酛、生酛にチャレンジをしていく。
ちなみに自社のオンラインストアでは15分で完売してしまって、じつは僕はお店用に買って帰りたいくらいです!
寺澤:清酒製造とほぼ同じ造りをしており、酸味という面では、フルーティなリンゴ産高生産酵母をつかっています。精米歩合については、80%より磨かないと真っ白などぶろくに仕上がらないので70%精米のお米を選んでいます。
お米についてはどぶろくの場合には、酒造好適米よりも食用米のほうが味に深みがでると考えてコシヒカリをつかっています。
2.目指す味わい
戸田:お2人と比べると年齢も若いなかで恐縮ですが、この三軒茶屋醸造所のどぶろくは、いい意味でも悪い意味でも「なんでもないお酒」を造り上げたいと考えています。
三軒茶屋醸造所は「金木犀どぶろく」「ブルーベリーどぶろく」などの変わったどぶろくだけでなく、搾ったSAKE(ボタニカルSAKE FONIA)など、色々な造りにチャレンジしています。その中で、醸造所の看板商品である「三軒茶屋のどぶろく」はスイスイ飲める、日常に寄り添うお酒を目指したい。何でもないけど何でもなく飲めるお酒です。
醸造所併設飲食店のお料理のお話などもありましたが、日本酒とどぶろくであう食事に違いがあるんですか?
戸田:どぶろくは日本酒の前段階で、酒粕をひいていない状態。アミノ酸や旨味がたっぷり入っています。
澄んだお酒である日本酒だと一般的にすっきりとした和食にあわせやすいですが、どぶろくの場合にはもっと味の濃い料理にも合わせやすくなります。
たしかに!東京港醸造さんもコシヒカリということでお米たべているのと変わらないですもんね
戸田:お米に対する考えは3蔵一致しているように思います。WAKAZEも酒米の出羽燦々でどぶろくを造ったことがありますが、今は食用米つや姫をメインにしています。
岡住さんも食用米をほとんど磨かずに、お米のポテンシャルを引きだしてらっしゃいますね。
岡住:色を見比べていただくとわかるかと思うのですが、僕のどぶろくはクリーム色っぽい濃い色をしていて、磨いていない特徴が出ている。
飲み口でも、旨味が強い味わいがでていますね。でも、濃すぎて飲みにくい!とはならないように酸味で味が切れるように設計しています。
一般的にどぶろくはアルコール度数は5-9%の低アルコールが多いように思います。寺澤さんのは5%、戸田くんのは11%。僕のは通常版ハナグモリで13%、今日のお持ちしたLABで12%です。アルコールをしっかりだしています。
アルコール度数により、合う食べ物も通常のどぶろくとは違ってくるのかなと考えながら造っています。
寺澤:お料理では、チーズやクリーム系があう。このまま飲んでもらうのもよいですが、どぶろくに肉魚を漬け込むのも勧めたい。具材を柔らかくする成分が入っているので料理や、お鍋にも活用してほしい。
岡住:ぜったい美味いですね!
塩麹みたいな使い方ですね
寺澤:どぶろくの風味が魚や肉に移りアミノ酸で旨くなるのと、どぶろくに含まれるプロテアーゼで肉魚が柔らかくなるのも特徴ですね。
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後編に続く:
東京どぶろくサミット 後編(東京港醸造/木花之醸造所/三軒茶屋醸造所)
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